竹澤伸一教授によるアクティブラーニングコラムです。竹澤先生は現在都心型コースにて教鞭を執っており、参加者である学生を全員「主人公」とし、常に学生の発言を重んじて授業を展開しています。

アクティブラーニングのケーススタディは、回を重ねていくと討論に習熟し、内容が濃くなってきます。まったく途切れることなく何十分でも討論が続きます。ただし、学習者(参加者)が80人いるとすると、どうしても発言回数に差が生じてくるのも事実です。もしその講義が評価される対象だと、発言回数が多く質の良い者が高い評価を得ることが自然の流れになります。当然、自分が多く発言するなかで、同じ教室の他の発言が少なくなってくるのを、内心喜ぶ傾向も出てきます。でも、ある講義で、それとは対照的なできごとが起こりました。その講義は、ケースに基づいて教員が事前に提示する課題(アサインメント)に対する討論にとどまらず、討論課題を学生に作らせ送らせていました。
学生たちは勇んで自作のアサインメントをつくり、講義本番、何人もの学生のアサインメントが採用され、全体討論の場で活用されました。採用された学生にとってこれ以上名誉なことはなく、誇らしい気持ちになったに違いありません。また、思わぬ「ブランディング思考」の広がりが見られ、学生の講義参加への士気は否が応でも高まりました。
その講義の後、数人の学生が教員のもとを訪れました。彼らは、周囲の発言が増えたことで、自分たちの発言機会が減った「もとヒーロー」たちです。「先生、私たち本当に喜んでいるのです。先生が、アサインメントまで学生に考えさせてくれたおかげで、多くの学生が討論に参加するようになりました。それまでは、私たち数名が事実上、講義を回していたのです。確かに私たちの出る幕は減ったのですが、多様な意見がたくさん聞けるようになって、以前より数倍勉強になっています。」その教員は感動するとともに、ある確信を得ました。学生の「器」は、全員参加型の討論を組めば、確実に広がるのだと。アクティブラーニングには、こんな効果もあるのです。